『ナイルに死す』女性だから描けるミステリー ※ネタバレあり

※アガサ・クリスティ『ナイルに死す』をネタバレで紹介しますので、展開を知りたくないという方は読まないようにご注意ください※

アガサ・クリスティの小説はミステリー小説ですが、中には恋愛小説なのかと思わせるストーリーも多く含まれています。

前回の検察側の証人もそうでしたが、今回の『ナイルに死す』もそうです。

特に『ナイルに死す』ははじめから男女の愛憎が原因で殺人事件が起こるのを予感させています。

ナイルに死す

物語はジャクリーンの恋人レナードが失業して、レナードのためにジャクリーンは金持ちの友達リネットに彼を管理人に雇ってほしいとお願いします。

そして無事レナードはリネットに雇われますが、その3ヵ月後にリネットはレナードと結婚してしまうのです。

新婚旅行にはエジプトのナイル川クルーズの旅に行きます。

しかしレナードに捨てられたジャクリーンも船に乗ってきたのです。

しかもジャクリーンは名探偵であるポアロに二人に復讐したいと告白までします。

そしてとうとうリネットが殺されてしまいます。

犯人はジャクリーンだと誰もが思いますが彼女にはアリバイがある。

ではポアロがこの鉄壁のアリバイを崩すのだろうか、と読者は考えます。

確かにそうなのですが、話はこれだけではなく、もっと複雑なのがアガサ・クリスティの実力なのです。

犯人はやはりジャクリーンですが、彼女が手を下したのではなく実行犯はレナードでした。

二人は共犯だったのです。

二人は最初からリネットの財産が目当てでリネットに近づき、裏切られたジャクリーンがリネットを狙うように見せかけてレナードがリネットを殺す。

レナードはリネットの財産を相続し、それで二人は元サヤに収まるはずでした。

真相はポアロによって暴かれジャクリーンは隠し持っていた拳銃でレナードを撃ち自分も自殺して亡くなります。

女性に対する魅力はあってもお金に縁の無い彼と幸せになろうとして失敗した哀れな恋人同士として犯人である二人を描いています。

このナイルに死すはジャクリーンがレナードへの愛のために起こした犯罪でした。

ジャクリーンがポアロに言った、

「レナードがいないと生きていけない」

これはまさに恋愛小説に出てくるような愛の言葉。

こういう描き方が出来るのは、やはりアガサ・クリスティが女性だからこそ可能なのでしょう。

『アクロイド殺し』作者に上手くだまされる快感 ※ネタバレあり

※アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』をネタバレで紹介しますので、展開を知りたくないという方は読まないようにご注意ください※

アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』。

アクロイドを殺したのだと実にわかりやすいタイトルです。

アガサ・クリスティの作品タイトルは印象に残るタイトルが多いのですが、これはアクロイドという名前です。

しかし、それでも印象に残る名前のため、本屋などで見かけるとついつい目が行ってしまう本です。

その中身も他の小説よりも風変わりなところがいくつかあります。

アクロイド殺し

本来ならば名探偵ポアロの相方であるヘイスティングが物語の進行役というか語り手として話が進んでいくのですが、彼はアクロイド殺しには出ておらず、変わりにシェパード医師が物語の進行役を勤めています。
(ヘイスティングは結婚して海外移住だそうです)

しかし、シェパード医師は殺人の第一発見者です、その彼がヘイスティングの代わりに語っているのはいささか違和感を覚えたものです

次にポアロが犯人を暴いて警察に突き出すのではなく、犯人に自首を勧めるのでもなく、犯人に自殺をほのめかして死ぬように持って行くのです。

これは衝撃でした、まさかポアロが犯人に自殺を勧めるとは、それも理由が犯人には姉がいて、シェパード医師が殺人犯として捕まったとしたら彼女が哀れだからだということで実に感情的で勝手な理由です。

そして最大の変り種は犯人がアクロイド殺しの語り手であるシェパード医師だということです。

これには驚きました。

それまで冷静に物語を語っていたシェパード医師が最後の最後で風向きがおかしい、と思った瞬間に犯人だったことを突きつけられた、そんな感じです。

物語の語り手が犯人だったことで、これはフェアなのかアンフェアなのかの論争が起こったくらい話題の作品でした。

推理小説の語り手は他人事のようにストーリーを説明していくのでいわば空気のような存在、その空気のような語り手が真犯人でした、といわれたら油断していた読者は驚くに決まっています。

だからフェアではない、という人の気持ちもわからないではないのですが、私の場合、この驚きはむしろ気持ちがいい驚きでした。

まさか、物語を語っている人自身が犯人だったなんて、これは上手くだまされた、くらいの気持ちです。

だって推理探偵を読むときに望むことって、作者がいかに読者を上手くだましてくれるかではないでしょうか?

自分では絶対に考えられない驚きを与えてくれるから推理小説は面白いのです。

『そして誰もいなくなった』物語の最後はやはりすごかった。 ※ネタバレあり

※アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』をネタバレで紹介しますので、展開を知りたくないという方は読まないようにご注意ください※

アガサ・クリスティの作品はタイトルが印象的であることが多く、タイトルだけでもひきつける魅力を持っています。

「NかMか」

「邪悪の家」

「死が最後にやってくる」

「終わりなき夜に生まれつく」

「何故エヴァンズに頼まなかったのか?」

このようにタイトルを見ただけでも、一体どんな内容なんだろう?と興味を注がれてしまう。

だけど私が一番強烈に印象に残ったタイトル、それは「そして誰もいなくなった」でした。

この作品を私はタイトルだけで読みたい!と思えてしまいました。

そして誰もいなくなった

それに「そして誰もいなくなった」は不思議なタイトルです、だってこの一言だけで物語のネタバレになっているんです。

この一言だけでラストは誰もいなくなる光景が眼に浮かぶではありませんか。

でも、どうやって誰もいなくなるんだろう?

そして犯人以外は誰もいなくなるのか?

それとも犯人も含めて誰もいなくなるのか?

実に謎に満ちて、ある意味恐い印象さえ持つタイトルでもあります。

ネタバレになっていながらにして、こんなにいろいろ想像させるタイトルはめったに無い。

読む前からわくわくさせる最高のタイトルだと思っています。
しかも素晴らしいのはタイトルだけではありませんでした。

ストーリーのほうもタイトルに負けず劣らずのワクワクドキドキが止まらない。

だってある島に10人の男女が招待されて、そこでインディアンの歌と同じ方法で一人ずつ殺されていく。

犯人は10人の中にいる?

それとも11人目がいてどこかに潜んでいるのか?

これだけ読むだけでも面白い。

だけどこの手法は何処かで聞いたことがある、と思う方は多いと思われます。

それもそのはずで、「そして誰もいなくなった」をまねた作品は山のように存在します。

アニメであったり漫画であったり、テレビでも、中には小説自体にも似ている箇所を発見します。

特に童謡に見立てて殺人が起こる内容は今でもたびたび見うけます。

その中にはあの探偵金田一耕助で有名な横溝正史が書いた「獄門島」であったり「悪魔の手毬歌」の中にも見受けるのです。

歌の歌詞どおりの殺人が起こっていく。

それは次にまた殺人が起こる予告となり、登場人物の中から次に誰が殺されるのだろうと恐怖をあおります。

※※※以下、ネタバレ注意です※※※

そして物語の最後はやはりすごかった。

島で殺された中の一人が実は生きていて死んだふりをして殺人を実行していたなんて!

しかも、犯人の目的は、罪を犯しながらも罰せられなかったものたちを犯人自身が裁くという大いなる野望のためとは!!

そして真実は告白書をビンにつめて犯人は自殺。

そして「そして誰もいなくなった」とは良くぞ出来た話でした。

『オリエント急行殺人事件』のトリックはずるい? ※ネタバレあり

※アガサ・クリスティ『オリエント急行殺人事件(オリエント急行の殺人)』をネタバレで紹介しますので、展開を知りたくないという方は読まないようにご注意ください※

オリエント急行はパリからイスタンブールまでをつなぐ国際寝台列車のことです。

1883年から運行され豪華なつくりで貴族や金持ちに多く使用されていた列車でした。

しかし、この名前を日本人が知るようになったきっかけは、アガサ・クリスティ作の『オリエント急行殺人事件(オリエント急行の殺人)』によってでした。

1974年に『オリエント急行殺人事件』は映画化され、当時の日本ではありえない、こんな豪華な列車があるのだとこの作品でオリエント急行は世間の人が知るところになるのです。

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お金持ちばかりが乗る寝台列車で殺人事件が起こる、これだけでも興味がわきます。

しかも大きなお屋敷や街中ではなく、寝台列車という密室での出来事です。

そのため犯人はオリエント急行に乗っている乗客に絞られます。

そして誰が殺人を行ったのかを追求する探偵は名探偵ポアロ、彼はアガサ・クリスティの殺人事件の物語に必ずと言っていいほど出てくる探偵です。

その彼が謎を解き明かすのですが、これが困難を極める作業でした。

一人ひとり尋問をしていきますが、容疑者全員には完璧なアリバイがあったのです。

犯人探しのほかにもポアロを悩ませるのが殺された被害者ラチェット本人の過去。

捜査の段階でラチェットの過去が洗い出されますが、彼は赤ん坊を誘拐して殺した犯人であったことが浮き彫りになります。

その犯罪に関しては彼は当時国外逃亡していたため罪に問われず、その後も堂々と大手を振って生きてきた罪深い人間だったことがわかってきました。

おそらく犯人はラチェットの過去の罪への復讐から彼を殺したとポアロは気づきます。

正義の元に下された殺人事件、ポアロは犯人を断罪することが出来るのか?

アガサ・クリスティは意外な犯人を作る名人です。

このオリエント急行殺人事件でも、それまでにない犯人を作り出しました。

さすがにその犯人をここにネタバレすることは控えますが、あまりに自由な発想のために彼女の描く答えを認められない人も多くいるほどです。

けれど、アガサ・クリスティが最初に大胆な犯人を描いたおかげでその後の探偵小説家は楽になったはずです。

こんな発想でもいいんだ、見る人たちが楽しみ驚かせればそれでいいんだと選択肢が広がったのです。

私などは映画を見た後に作品に興味を持ち、後で小説の「オリエント急行殺人事件」を読みました。

たとえ犯人がわかっていても、もう一度小説でじっくり読んでみたい。

そんな気にさせるのがアガサ・クリスティの魅力です。

『スタイルズ荘の怪事件』処女作がすでに傑作! ※ネタバレあり

※アガサ・クリスティ『スタイルズ荘の怪事件』をネタバレで紹介しますので、展開を知りたくないという方は読まないようにご注意ください※

アガサ・クリスティのおすすめ作品、まずはやはり『スタイルズ荘の怪事件』です。

スタイルズ荘

『スタイルズ荘の怪事件』はなんとアガサ・クリスティの処女作です。

最初に書いたミステリー小説だからまだ稚拙な内容かと思われそうですが、そんなことはありません。

アガサ・クリスティはもうこの頃からミステリーの天才だったようでかなり完成度が高く面白い作品です。

スタイルズ荘の女主人でお金持ちのエミリー・イングルソープはかなりの高齢にもかかわらず最近になって20歳も年下の男性のアルフレッドと再婚します。

お金持ちの女主人とまだ若い夫となれば、それを面白くない、と思うのはエミリーの子供達です。

それも本当の子供ではなく亡くなった夫の息子達。

元々エミリーの財産は亡くなった夫の財産、エミリーが亡くなった場合、普通であれば息子達が相続するべきものが、この若い夫に奪い取られることになるのです。
そんなある日、エミリーが毒殺されます、犯人は誰もが20歳年下の夫だといいます。

それに対してポアロは彼は犯人ではない、と言ってアルフレッドの無実を証明します。

この時点で読者はアガサ・クリスティにだまされるのです。

犯人は他にいると。

次に疑われるとしたらエミリーの義理の息子のジョンでした。

彼は弁護士になるもろくに働かずにエミリーから毎月渡されるお金をやりくりしながら妻とくらしている頼りない息子です。

ジョンに不利な出来事がいくつも出てくることでもう犯人はジョンかな、と思わせるのがアガサ・クリスティのすごさです。

一度無実を証明されたからアルフレッドは犯人ではない、と誰もが思うはずです。

ですが、捕まった罪に関しては無実でも真犯人ではないとは限らないのですアガサ・クリスティーのミステリーでは。

アルフレッドは別の方法でエミリーを殺していました。

そしてエミリーには秘書のようなエヴィという女性がいつも側についていました。

エヴィはアルフレッドの親戚でありながら仲が悪く、いつも彼の悪口を言ってるのです。

エミリーに彼を遠ざけるよう忠告して反対にエミリーからスタイルズ荘から出て行くよう言われてしまいます。

ここでエヴィは常識のある女性だから犯人ではないと思われますが、しかしこれもアガサ・クリスティの罠でした。

仲が悪い親戚同士の二人は実はグルでした。

仲が悪ければエミリーを殺す共犯にはならないだろうと周りをごまかしていたのです。

これも実にクリスティは巧妙に描いていました。

金持ちの女性が年下の夫を持ち、義理の息子達がいて、側には優秀な女秘書がいて、殺されてしまった。

これだけでも興味がわくのに、何度もどんでん返しがある『スタイルズ荘の怪事件』。

処女作にしてすでに脱帽するほど面白かったです。

これからアガサ・クリスティを読もうとしていらっしゃる方には、処女作の『スタイルズ荘の怪事件』から読まれることをおすすめします。